2017年11月29日水曜日

171129 術前診察で返答に困った言葉 術後の認知機能障害 (研修医の先生のプレゼン)

術前診察で返答に困った言葉
①高齢者の全身麻酔は脳に悪いんじゃないか?認知症になるのでは?私は少なくとも100歳までは健康に生きたいのだが。(82歳男性)
②前回の手術では術後にせん妄になって大変だった。今回はせん妄にならないような麻酔をしてほしい。(84歳女性の御家族様一同)

術後の認知機能障害の鑑別疾患
術後せん妄
術後認知機能障害(POCD)
認知症
中枢性抗コリン症候群
Akinetic crisis

術後せん妄
疫学
高齢者の予定手術における発症率は4~50%
高齢+ICU入室では87%との報告も。

リスク因子
高齢、深い麻酔(Manatpon P. Toxicity of inhaled agents after prolonged administration. J Clin Monit Comput. 2017 Nov 2) 、重症疾患、視力障害、術前認知機能低下
脱水、術後疼痛、SpO2低下、ICU入室、ASAスコア高値
など様々なリスク因子が示唆されている。
心臓手術(Sauër AC.Association between delirium and cognitive change after cardiac surgery. Br J
Anaesth. 2017;119:308.)・大腿骨頸部骨折術後に多いとの指摘も。

予後
比較的短期間で改善するが、在院期間の延長や以後の認知機能低下、
死亡率の有意な上昇がみられるとする報告もある。

術後認知機能障害(POCD)
疫学
高齢者の非心臓手術での発症率は術後1週間で25.8%、術後3か月で9.9%
リスク因子
高齢、高侵襲手術、長い麻酔時間、術中・術後の合併症、
アルコール依存症の既往など

症状
手術直後~数か月後より、新たに日内変動の乏しい認知機能障害が生じ
数日~数か月で改善する。
予後
手術3か月後にPOCDのある患者は数年後からの予後が有意に悪い
手術1週間後にPOCDのある患者はその後の就業率が有意に悪い
とする報告がある。

Pappa M. Pathogenesis and treatment of post-operative cognitive dysfunction. Electron Physician. 2017 Feb
25;9:3768.
Lv ZT. Effect of Ulinastatin in the Treatment of Postperative Cognitive Dysfunction: Review of Current
Literature. Biomed Res Int. 2016;2016:2571080.

ADの病態への麻酔薬のin vitroでの影響
Aβアミロイド産生増加
アミロイド前駆物質を産生する細胞にイソフルラン、デスフルラ ンを暴露させるとAβアミロイドの産生が増加する。
Aβアミロイドの凝集
ハロタン、イソフルラン、プロポフォールにより、Aβアミロイドの凝 集が惹起されることが示唆されている。
タウ蛋白のリン酸化
セボフルランの反復暴露によりリン酸化タウの増加がみられた。

文献
横山正尚、高齢化と術後認知機能障害、日臨麻会誌VoL37 No.2,193~200,2017
北川雄一、高齢手術患者における術後せん妄、日外科系連会誌 38(1):28–35,2013
井原涼子・井原康夫、アルツハイマー病の病態と全身麻酔薬、医学のあゆみ vol.249 No.12 1225-1230,2014

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